集団の効果
勝てない綱引き団体

Dec. 14 1998


小学6年のときに,学年で綱引きの大会がありました. 私は6年4組にいたのですが, 私のクラスのみんなはあまり綱引きに興味がなく, そのせいか綱を引くときの呼吸があっていませんでした.
これを見かねた担任の吉田先生(通称「ほくろおばさん」って関係ないですね ^^;) が,
「この大会で優勝したらみんなにチョコレートをあげよう」
と言いました(吉田先生の実家は菓子問屋をやっていた). 当時は単純でしたから,みんな一気にやる気がでてきて, 「チョコレート!」 を合い言葉に綱を引き始めたのです. するとどうでしょう,いままで全然勝てそうになかった我らが4組が, 「チョコレート,チョコレート」のリズムにのってグイグイ綱を引き寄せてきます. そして,なんとその対戦で勝ってしまったのです.
結局,この大会で我々のクラスが優勝し, クラスのみんなはチョコレートにありつけました.

なんと単純な奴らだって思いました?
すみませんね,単純で.
でも,今の皆さんはその当時の6年4組以下だってことわかってます?

6年4組が綱引きで優勝できた理由は何でしょうか?

一人一人が出せる力というのはたかが知れています. 4組のみんなは, 最初はそれぞれがおもいおもいのタイミングで綱を引いていました. そのため,引く力は分散してしまっていました. それが,「チョコレート」のかけ声をかけながらリズムにのって引き始めてからは, みんなが同じタイミングで綱を引くようになりました. すると,引く力に大きなピークが現れるようになったのです. そのピークの力が,相手をグイグイと引っ張ったのです.

非常に良く似たことがオケの中にもあてはめることができます.

われわれはなぜ音程を合わせようとするのか?
われわれはなぜ音の立上りを揃えようとするのか?
われわれはなぜ弾き方を揃えようとするのか?

この辺に,あてはめることができそうですね.
順序が逆になりますが,まずは音の立上りについて見てみましょう. 今,簡単のため 5人の奏者が方形波を出すという状況を考えてみます. 5人がいっせいに音を出した場合,そのときの波形は下の図のようになります. ちょうど1人のときの5倍の波が得られたことになります. 息のあった立上り
では,みんながちょっとずれたタイミングで音を出したらどうなるでしょう? 結果は下の図の通りです. もとは方形波だったのに,立上りがなまってしまっています. 人数が増えても同じです. もし,この音がアクセントをつけなければならない音だったらどうなるでしょう? みんながいっせいに音を出せばきれいなアクセントが得られるのに, バラバラに音を出すと波形がなまってしまってアクセントに聞こえなくなってしまいます. その結果,「もっとしっかりアクセントをつけて」なんて言われるはめになり, それぞれの奏者が必要以上に強いアクセントをつけなければならなくなってしまうのです. そんなことをするよりは, みんなで「同じ」タイミングで適度なアクセントをつけた方が, より効果的なのです. バラバラの立上り
次は音程です.みなさん,中学か高校のとき, 音さでうなりの実験をやりませんでしたか? 440Hz と 442Hz の 2つの音さを用意して, この2つを同時に鳴らします. すると,442 - 440 = 2 Hz のうなりが聞こえるのです. また,442 Hz の音さを 2つ用意して同時に鳴らすと, 非常に大きな音が聞こえます.これを「共鳴」といいます.
簡単のため,出す音を正弦波(sin カーブ)として, 2人が音を出したとしましょう. 2人がまったく同じ音程で音を出したときは下の図のようになります. 普通の正弦波ですね. 共鳴の図
これが,音程が微妙にずれてしまうとどうなるでしょう? 下の図は,音程を 5%, 音の位相(タイミングだと思ってください)をわずかにずらした状態です. ほら,ものすごいことになってますよね? 本来ならば最初からちゃんと波が出るはずなのに, 徐々に大きくなっています. しかも,このあと周期的に大きくなったり小さくなったりします. この図の状態はちょっと極端ではありますが, いずれにせよ,音程が合っていないと「うなり」という気分の悪い音が生じるだけでなく, 音量が足りなく感じたり, 音の立上りを遅らせる要因にもなるのです. うなりの図
だからこそ,練習でアンサンブルを整え,音程を整えることは重要なのです. ものすごく厳密にやったら大変なことになりますが, 現状は大変ひどい状態ですので, 皆さんに少しずつ意識してもらえれば今よりももっといい演奏になります. だから,もっとちゃんとやろうよ.


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